2020.11.17
製品・技術

目視こそ保全の要。塗膜調査における観察ポイントとは

塗膜はさまざまな要因によって日々劣化が進んでいます。こうした塗膜の現状を把握するために行なわれるのが「塗膜調査」です。
大型プラントの場合、こうした塗膜調査を含めた調査・補修は、事前の保全計画に基づき定期的に行なわれますが、それに加えて保全担当者の「目視」による日常的な塗膜検査も推奨されています。保全担当者の現場巡回による目視調査は、欠陥部分を早期に発見し、補修時のコストや工期を少なく抑えられることができるため、長期防食や効率化の見地からも優れた方法といえます。
また、小規模施設やプラントにおいては、そもそも定期的な調査が不足しがちになっているため、大型プラント以上に保全担当者の目視による塗膜調査が重要です。

そこで今回は、目視調査をどのように行なうのか、その観察ポイントと結果から導き出される最適な塗替え時期の判断について紹介していきます。

1. 塗装の劣化要因と保全担当者による目視調査の重要性

大型の鋼構造物は、内的要因・外的要因等、さまざまな要因で劣化が進行します。特にプラント等、外に設置されている構造物は、天候や周辺環境の影響を受けやすいので注意が必要です。

たとえば、光(紫外線)および酸素による塗膜の樹脂成分や顔料成分の化学分解作用は、塗膜の光沢保持性や変退色に大きな影響をおよぼすとされており、さらにここに水や熱の影響が加わわれば、劣化スピードはさらに促進します。
主な劣化要因は、以下の通りです。

こうした塗膜の劣化やはがれを早期に発見し、適切な維持管理を実現するために行うのが「塗膜調査」です。早期に塗膜の欠陥を発見し、適切な処理を行なう事は事故の予防、補修経費のコストダウンにも繋がります。
また塗替え前後の塗膜の状態を正確に把握することで未来予測・長寿命化など、長期的なプラント維持管理の計画が可能となります。
次章では目視調査の具体的な手順について紹介していきます。

2. 目視調査における観察ポイント

調査員の眼により比較的広い面積を確認できる目視調査に対して、計器による測定は一度に小面積しか測定できません。正確な測定結果を出すためには、計器で測定結果を増やす必要があり、非常に手間がかかります。逆に測定個所数を省略すると、判断材料が不十分になってしまいます。そのため計器による測定は目視調査の補完と位置づけます。
一方で調査においては「統一的な見解に基づいた妥当な判定」が下されることが求められており、計器による調査と異なり、調査員による個人差が現れやすい点が目視調査の問題でもあります。
そこで個人差をできるだけ排除するために、各種の標準図が作成されています。
目視調査において最も簡便な方法は、さびや塗膜の破損状況を確認することです。
これに加え、はがれ・白亜化・割れなどの状況を把握し、塗替え時期の判定基準とします。
図表:「関西鋼構造物塗装研究会 資料」をもとに関西ペイント株式会社 作成

■目視調査のための各標準図

【1】さび

さびの状態は、標準図および発生面積に基づいて評価します。
ただし、さびが部分的であったり偏っていたりすることで、上記の評価を用いても判定が難しい場合、また、塗膜調査に不慣れな場合などは実物の写真を使って評価し、さび発生面積を推定、それを標準図と照らし合わせます。

 



 

【2】はがれ

はがれの状態は大きさによって、小はがれ・大はがれに分類されます。はがれのあるものは、標準図に基づいて評価します。

 

【3】白亜化(チョーキング)

塩分は、それ自体が水に溶けやすい性質であり、水溶液は電解質で腐食電流の流れを大きくするため、鋼材の腐食が大きくなります。さらに海浜では高湿度のため、濡れる時間が長くなることも腐食しやすい要因です。

 

【4】割れ

割れの状態は「線状われ」「鳥足状われ」「不規則われ」の3種類に分類され、それぞれの標準図に基づき評価します。



 

【5】膨れ

膨れの状態は標準的にはさびの標準図を利用し、下記の表に基づき評価します。
また膨れを破って、膨れの発生がどの層であるかを確かめ、記録しておきます。

 

 

※ただし、割れ・膨れについては、遠くからの目視では正確な評価が難しく、また重防食塗装系塗膜が一般塗装系と比べて塗膜性能が格段に高いため、目視により適格に状態を把握することは困難です。
定期点検において、塗膜の一部を採取して塗膜中の亜鉛末の状態を観察する方法などを検討し、目視調査ではさび評価により塗膜にさびの発生がなければ、防食下地のジンクリッチペイントは健全であると判断します。

こうした標準図に基づき、場合によっては各評価を組み合わせて劣化度判定を行なっていくことで、より総合的かつ正確な考察を行なうことが可能となります。

 



 

また、調査では防食機能の維持が軸となりますが、周辺環境によっては景観や美観についても考慮します。そういった場合は、変退色や汚れも点検項目に追加していきます。

 

  • 変退色

初期の色に該当するカラーカードを準備し、比較することで変退色の程度を評価します。

 

  • 汚れ

塗膜表面の汚れを水または洗剤を用いて10×10cmの面積をふき取り、その洗浄面と周囲の汚れた面との差を4段階で評価します。

■目視調査を行なう場所

目視調査は、既設足場や地上からの遠望により外観全体を広く観察します。

化学プラントでは、保温材の不連続部や外装板の腐食・損傷部等、CUIの発生しやすい場所における外観を特に注意深く観察する、といったように、プラントの特性に合わせて、重点的に観察する箇所を変更することも必要です。
下記表:「目視点検のマニュアル等」(総務省消防庁)
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/2019/03/30/items/02_h310130_shiryo2-1.pdf
をもとに関西ペイント株式会社 作成

3. 調査から導き出される最適な塗替え時期とは

前章で紹介した目視調査の他、計器による調査や必要な塗膜調査を行なった後、そのデータをまとめ、結果に基づき塗替え時期や塗装仕様を決定していきます。

 

前章の調査結果を下記の塗膜管理台帳に入力いただくと、劣化度の判定が可能です。


塗膜調査台帳ひな形ダウンロード(excel)

 

A:塗膜は健全な状態
B:損傷や劣化が認められるが、塗膜は防食機能を維持している状態
C:部分的に損傷や劣化が生じ、塗膜は一部防食機能が損なわれている状態
D:全面的に損傷や劣化が進行し、塗膜は防食機能が失われている状態
このように塗膜調査の方法や評価等、一定の基準が設けられていますが、塗膜の塗り替え時期は美観への配慮やその施設がおかれる環境、コスト・工期等、さまざまな事項を複合的に考慮した上で判断されます。
表と照らし合わせた評価点だけにこだわらず、担当するプラントの状況を鑑みながら判断することが大切です。

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