サステナビリティトップメッセージ

Greatな企業を目指して

はじめに

私が社長に就任して5年目に入りました。2019年に社長に就任以来、日々の一日一日はとても濃密で数多くのことに取り組んでおりますが、振り返ってみるとあっという間だというのが実感です。この4年間、当社の変革を進める中、これでもかというほどの外部環境の変化が起こり、例えれば、船を修理しながら航海していた中で嵐になり、海図が役に立たない状況に置かれた船の船長のような気持ちです。今も嵐は止まず、将来を見通すことは困難でありますが、これまで、その中を生き抜いていくこと、そして、常に明るい未来を描き、自ら将来を切り拓くという覚悟をもって進めてきました。その結果、当社は変わり始めています。統合報告書2023では、できるだけ皆様に当社の活動を知っていただき、また、当社がGreatな企業に変貌していくためのコミュニケーションの土台になることを目的として昨年からの改善をさらに進めております。今後、皆様と良い対話ができることを心から願っております。私にとっても普段は業績や財務、戦略等のお話をすることが多いので、今回は少し違う角度で私が社長になってからの振り返りと今後の展望をお話ししたいと思います。

社長としての覚悟

2019年に社長に就任した時は、先の第14次中期経営計画(以下、14中計)、15中計で急速に拡大した海外拠点と事業の展開にグリップが効かず、結果として海外事業の収益性の低下が止まらないという状況でした。当社だけでなく、世の常だとは思いますが、全体がうまくいっている時は良いのですが、一度歯車が狂いだすと大小さまざまな問題が起きるものです。当社も新興国の成長スピードの鈍化に合わせるようにガバナンスが低下し、舵取りを一つ間違えば大きな危機に直面しかねない、という状況での船出となりました。社長を拝命し社長として当社を冷静に見ると、自らの責任の重たさをひしひしと感じ、大いに悩みました。当時の私の偽らざる心境は戦略や戦術をどうするか、というよりは、「100年続く関西ペイントの看板を守り抜くこと」と「このような状況で社長に就任するのは私で最後にしなければならない、常に前向きな挑戦をしていく会社にする」、という2つの覚悟でした。

そこからはすべての責任は私にある、正真正銘のラストマンという決意のもと、事業撤退や、責任を明確にした人事異動等、当社が苦手としてきた「課題への聖域なき対処」を一つ一つ進めていきました。いわば、マイナスからのスタートで、正常な状態に戻すことを目的として策定、実行したのが16中計でした。

財務構造改革

16中計を語る際に最も大切なポイントが財務構造改革であります。何事をなすにも強固な財務と資産の有効活用が前提となると考えたためです。幸い、当社は安定してキャッシュを生み出すことができ、固定費も比較的大きくないすばらしい事業モデルを持っています。しかし、これまでこの特性を十分に生かせていませんでした。
当社の稼ぐ力の指標であるROICは6%強ですが、これを下回る低収益の事業や不動産、保有株式などを手放さずに多く持っていました。これらの資産を圧縮し、事業で生み出すキャッシュと合わせて手に入れる潤沢な資金を将来の成長のための投資に積極的に振り向けていく。このようなサイクルをつくり出すためにはバランスシートとキャッシュフローを重視し、そのうえで資金の調達元を見直し、経営効率を高めていくことがすべての活動の源になると考え、就任後直ちに着手しました。

ガバナンスの改善

もう一つ、就任直後から着手したのは、海外事業の立て直しです。業績を立ち直らせるには戦略や戦術の有効性を高めなければなりませんが、そのためにはまず、社内で建設的に議論され、改善を進めていく仕組みがしっかりしている必要があります。一般にガバナンスといわれる領域で難しく感じますが、「経営がうまくいく仕組み」と理解すれば日常のいろいろなこととつながっていきます。日常の問題意識をガバナンスという見方で整理して会社の仕組みを改善したり、新たな活動を起こしたり、という取り組みを財務構造改革と対の形で最優先事項として実行しました。

ガバナンスについてはいくつもの個別の課題と格闘しながら、当社を蘇らせるための打開策を探るため、並行して大きく3つの方向から当社の真の課題を正確に把握しようと努めました。1つ目は当社の従業員です。16中計公表後、当社の従業員が何を感じ、どう行動しているかをさまざまな手法で把握することに努め、就任2年目に業績改善分科会を立ち上げ、従業員から約7,000件の意見を募りました。これを解析して当社が抱える課題の本質を探りました。2つ目は投資家の皆様との対話です。
戦略説明会や個別ミーティングの場でたくさんの視点や改善のヒントをいただきました。深く対話すればするほど、投資家と企業は企業の長期的、持続的成長という観点において目的を同一にするパートナーであるということを実感しています。3つ目は外部専門家です。さまざまな問題の解決にともに苦闘してくれる外部専門家に当社の成り立ち、規程やルールの分析に加え、従業員へのインタビューを通じて文化や行動特性についていっさいの忖度なく調査していただきました。1つ目の施策で当社の従業員のマインドから、個別の問題となる事案がなぜ起きているのかを理解することで当社が潜在的に抱える弱みを把握することができました。2つ目の施策は当社が目指す方向に向かうために改善していくべき本質的な考え方や、大きな方向性を定めていくことに貢献しています。そして、3つ目の施策は具体的にいつ、何を、どのような手段で対策していくかを検討するうえでの羅針盤となりました。

初期に行ったこれらの活動は私の新たな原点となりました。このような経験を踏まえて当社の創業の志である「利益と公正」という短い言葉の意味が深く、なんとすばらしいものであるか、ということを本当に理解できたように思います。岩井勝次郎という傑出した人物により創立された当社を誇りに思い、さまざまな課題に果敢に立ち向かい、社会から求められる企業であり続けることが当社のなすべきことである、という結論に達しました。このためにやるべきことはたくさんありますが、目指すものは「良いものは良い。ならぬものはならぬ。」を当社の従業員全員が実行するという非常にシンプルなものであると考えています。これらを踏まえて、この思いを具体的な戦略と実行施策に織り込んだものが当社の成長戦略“Good to Great”であり、17中計です。16中計同様、今後も有言実行していきたいと思います。

17中計の1年目を終えて

持続的成長サイクルへの転換期と位置づけてスタートした17中計ですが、引き続き外部環境は厳しく予想ができない激動の中、経常最高益を更新することができました。日本を含むグローバルで一丸となって値上げと原価低減に取り組んできた努力の賜物です。そして、16中計で封印したM&Aを再開し、海外で3件実施しました。また、国内ではオンラインに特化した関西ペイントブラーノ株式会社を立ち上げ、まだ規模は小さいながらも急成長を始めています。このように、内容と結果が伴った非常に良いスタートを切ることができたと思います。

冒頭の社内の課題解決を進めた結果として外部環境の変化に対応する力が少しずつ身についてきたと考えています。私自身はコロナウイルス感染症をはじめ、半導体不足、サプライチェーンの混乱、原材料高騰、ロシアによるウクライナ侵攻、何一つ予測できていませんでしたが、当社はいずれの困難にもしっかりと対峙し、成果を出すことができてきました。

「人間万事塞翁が馬」という言葉があります。課題だらけで社長に就任した時は目の前は暗かったですが、これらの課題解決に向けて明るく前向きに挑戦していくことで社内の問題を改善するだけでなく、外部環境の激変に対応する力がついてきたわけですから、まさに「人間万事塞翁が馬」であり、「天は自ら助くるものを助く」であると言えます。

人財育成の重要性と人はどのように成長するのか

この「天は自ら助くるものを助く」という点について少し詳しくお話ししたいと思います。

内外の課題に対処してきたのはすべて当社の従業員たちなのですが、これらの難関に立ち向かうことで数多くの人財が目覚ましい成長を遂げています。私はこれを「修羅場経験」と言っていますが、本来どの職場にもどの仕事にも問題や課題はあり、これを乗り越えるためには修羅場のような場面を乗り越えなければ意味のある改善や解決は望めません。私は生え抜きの社長なので多くの従業員を知っていて、困難に直面して逃げずに立ち向かう従業員がその経験を経て大きく成長する姿を幾度となく目の当たりにしてきました。

以前はこれらの成長を個人の潜在能力と機会の遭遇、つまり、瓢箪から駒に近い感覚でいました。しかしこの数年の経験を踏まえてこれはまったく違う、人は困難に立ち向かうことで成長する生き物であり、逆に安定した状態に長くいると退化していくのだということを深く理解しました。この理解に基づき、当社の持続的成長を実現するためには、人財の育成が最も大切な使命であると確信を持っています。当社の人財が世の中に貢献することにベストを尽くし、成果を出していくことにより当社が世界から必要とされ、成果を通じて潤沢な資金を生み出し、その資金を成果の質量の拡大に積極的に投資していくことこそが持続的な成長です。この一連の循環を永続的なものにするために、塗料の専門的知識や経験を土台にして、4つの力を持つ人財を育成していく必要があります。

1つ目は、当社の真のグローバル化、持続的成長を実現するのは「私たち一人一人」という覚悟です。
2つ目は、最前線で新たな価値を創出し続けられるように、社外の動きを踏まえ、社内の常識や前例にとらわれない思考です。
3つ目は、自身の信念とともに、異なる意見にも耳を傾ける柔軟性を持ち、変革につながる対話を生む力です。
そして、4つ目は、部署や職位を超えて周囲を巻き込み、挑戦する人を支え、皆で成功をもたらすよう促す姿勢です。

当社のこれまでの経験を煎じ詰め、求める人財像を明確にしました。この内容は会社のためだけではなく、各人の人生を豊かに、有意義にする内容であると自負しています。企業と従業員個人の目指す姿を同一にして皆で力を合わせて挑戦していく組織に変革を進めています。

これからの関西ペイント

2023年度は17中計の2年目となり、当社は売上、各段階の利益すべての項目で最高益を更新する内容を計画しています。17中計では16中計で整備した強みを生かした地域と事業のポートフォリオをベースに、当社の文化である挑戦と粘り、信頼を存分に発揮して事業を伸ばしていきます。同時に、この成長していく事業を支え、さらに加速させていくための経営基盤の強化に注力していきます。この事業と経営基盤は例えれば車の両輪です。そしてこの両輪を動かしていくのは従業員であり、その育成を最重要事項として取り組んでいきます。

さらに、マテリアリティをもう一歩進め、2030年のKPIを統合報告書2023で発表しています。塗料は元来被塗物の寿命を延ばす、サステナブルな産業ですが、当社は地球の持続可能性を積極的に高めていく、より魅力的な企業に進化していきます。

新たな成長ステージである17中計3カ年の真ん中の年である2023年度は当社が変貌していく分岐点と位置づけています。このためにやるべきことはたくさんありますが、当社の従業員はこれらをやり遂げるポテンシャルを十分に持っています。この先、当社が真のグローバル企業として力強く成長していく姿を皆様にお見せしていきます。ぜひ、当社に期待をしていただきたいと思います。

代表取締役社長