防食用塗料技術資料

素地調整について

技術資料009

1.ブラスト

ブラストとは、研掃材を空気圧・水圧あるいは遠心力で鋼材表面に吹き付けて、鋼材表面のミルスケール(黒皮)さび・ラストスケール・旧塗膜などを取り除く方法を言います。

■1-1ブラストの種類

ブラストの種類は、一般に用いる研掃材の種類で分類されます。

ブラスト 研掃材
ショットブラスト
サンドブラスト
グリットブラスト
ショット(鋼球粒)
河砂
グリット(鋼球粒)、ニッケルカラミなど

■1-2ブラストのグレード

ブラストのグレードは、除錆度によって分類されます。グレードは、ホワイトメタル・ニアーホワイトメタル・コマーシャル・スイープの4つに通常分けられます。ホワイトメタルはほぼ100%の除錆度で、以下順に除錆度が低下していきます。
ブラストに関する規格類には、
Steel Structures Painting Council:Surface Preparation Specification(SSPC)
International Standard IS0 8501-1(Swedish Standard SIS 05 5900と内容は同じ)(ISO)
塗装前鋼材表面処理基準(Standard for the Preparation of Steel Surface prior to Painting)(SPSS)
が広く用いられています。

これらの規格とグレードの対比は下記のようになります。

グレード SSPC ISO(SIS) SPSS
ホワイトメタル
ニアーホワイトメタル
コマーシャルブラスト
スイープブラスト
SP-5
SP-10
SP-6
SP-7
Sa3
Sa2.5
Sa2
Sa1
Sh3、Sd3
Sh2、Sd2
Sh1、Sd1
–––

参考)スイープブラスト(海外ではブラッシュオフブラストと表現)についてスイープブラストは、普通、ミルスケールなどの除去には用いず、一次プライマーの清掃や一次プライマーと無機質ジンクリッチペイントとの付着性を強固にする目的で塗膜表面を軽くブラストする方法を言います。はけで掃くようにブラストするためブラッシュオフブラスト(Brush off Blast)と呼んでいます。この方法には一般的にはサンドブラストが使用されます。

■1-3ブラスト方法

  1. 溶接部や鋼板表面に付着しているスラッグ・スパッター・フラックスなどはグラインダーなどで除去します。
  2. 表面に付着しているグリース・油脂類などの固着物質は、洗浄用ガソリンあるいは他の適当な溶剤で取り除きます。
  3. はなはだしいラストスケールは、事前に手作業さび落とし、あるいは機械によるさび落とし法で取り除きます。
  4. ブラストによりミルスケール・さび・旧塗膜・有害物などを金属表面から除去します。
  5. ブラスト処理した表面は、ブラシや圧縮空気・真空処理などにより、砂・ごみ・その他の有害物質を取り除き、清浄な面とします。
  6. もし、ブラスト処理後、表面に油脂・グリース・汚れなどが残っていた場合は、洗浄用ガソリンその他適当な溶剤で取り除きます。

■1-4注意事項

  1. ブラスト処理を行う場合は天候に注意し、天候の悪い日や湿度の高い日には行わないでください。もし、ブラスト処理後にさびが生じたときは、塗装する前に再度ブラスト処理を行ってください。
  2. ブラスト処理後はただちに塗装工程に移ってください。ブラスト処理を行うと、金属表面は活性となり、短時間の間にさびが生じます。特に海浜や汚染の著しい雰囲気の場合は注意してください。
  3. 作業に当たっては、作業マスク・ヘルメット・めがねを着用してください。
  4. 作業者が作業しながら、処理面のさび落とし程度がわかる明るさの照明器具を備えておくことが必要です。

■1-5検査

除錆度の検査は、ISOやSPSSなどの標準カラー写真と対比する方法がよく使用されます。定量的に表示ができない欠点がありますが、判定が容易で、比較的客観性もあり、実用的にはこの方法を推奨します。このほか、現場で実施できる除錆度の検査方法をいくつか次の表に示します。

項目 硫酸銅法 レプリカ法 フェロキシル法 粘着テープ法
要領

硫酸銅溶液中に準備した試験板に浸漬するか、吸取紙(口紙)に液を含浸させ、(小筆で検査面に塗付する。)

硫酸同溶液

  1. 中性硫酸銅溶液
    (JIS H 0401)
  2. 酸性硫酸銅溶液
    硫酸銅 4~8%
    硫酸   1%
レプリカ試片(セルロイド)をレプリカ液で濡らし、検査面に付着する。

電気メッキのピンホール試験と同様に、下記の組成液を吸取紙(口紙)に含漬させ、検査面に貼り付ける。

フェロキシル溶液

  • フェロキシアン化
    カリウム 10g/L
  • ルフェロキシアン化
    カリウム 10g/L
  • 塩化ナトリウム
    60g/L(JIS H 2041)
粘着テープを検査面に圧着する。
判定法 除錆部に金属銅が析出する。ミルスケール残存部は変色しないことから除錆部を判定。 レプリカ試片に付着したミルスケール、サビの状態から除錆度を判定。 防錆部は青色に変化するが、ミルスケール残存部は変色しないことから除錆部を判定。 テープに付着したミルスケール、サビの状態から除錆度を判定。
損失 浸漬、塗付などによって除錆部には完全に金属部が析出する。水洗、乾燥などの後処理が必要。 簡易法であるが、銅板表面に強固に残存付着しているミルスケール、サビの判定は困難。 表面アラサが大きい場合、ヘコミ部の残存付落ミルスケールの判定は困難。ニジミを生じる傾向があり、後処理が必要。 レプリカ法と比べて、さらに簡単であるが、レプリカ法と同様の欠点がある。

※三菱重工技報 Vol.4 No.1(1967)より引用

2.機械ケレン

ブラス機械ケレンとは、パワーブラシ・動力付きの金剛砂グラインダー・チッピングハンマーあるいはワイヤーブラシ・回転スケーラーなどを用いて、動力機により高速に回転させ、さびを落とす方法です。この方法は、すべてのミルスケール・さび・旧塗膜などを取り除くできませんが、ルーズなミルスケールさび・旧塗膜などを取り除くことができます。このため、完全な素地調整を要求される場合の方法としては適当ではありません。

■2-1機械ケレンのグレード

ブラスト処理と同様にSSPC、ISO、SPSSに規定があり、その対比は下記のようになります。

工法 SSPC ISO(SIS) SPSS
手工具
(ワイヤーブラシ)
動力工具
(パワーブラシ、パワーサンダー)
SP-2
SP-3
St2
St3
Pt2
Pt3

■2-2機械ケレンの方法

  1. 被塗面に付着しているグリーズ・油脂類を洗浄用ガソリンあるいは他の適当な溶剤で取り除いてください。
  2. 次にさび・ミルスケール・旧塗膜などを軽くハンマーなどで落とした後、動力付きの金剛砂グラインダー・回転ワイヤーブラシなどでルーズなさび・ミルスケール・旧塗膜なども取り除いてください。
  3. シームラインやエッジ・アングル部は、手作業のさび落とし工具を併用して特に入念に行ってください。
  4. 被塗面を十分に洗浄し、もし、グリース・油脂類が残っておれば、洗浄用ガソリンあるいは他の適当な溶剤で部分的に拭き取ってください。

■2-3検査

(1-5)に準じて行います。

■2-4注意事項

  1. 機械的なさび落としては、隅、角あるいは構造の複雑な個所は処理できにくいので、手作業さび落としを併用するなどして、隅々まで十分に処理してください。
  2. さび落とし作業が終われば、できるだけ早く(遅くともその日のうちに)塗装に移ってください。
  3. 作業に当たっては、安全めがね・マスクなどを必要に応じて着用してください。
  4. スパークによる火災や爆発に対する予防対策をあらかじめこうじておいてください。
  5. 機械ケレンでは処理内容の範囲が広く、積算面では4段階に区分してその内容を規定しています。

■塗装前の鋼材表面処理に関する各種基準

1)
SSPC
2)
ISO(SIS)
3)
SPSS
(JSRA)
4)
BS4232
5)
NACE
6)
標準
除錆率
WHITE METAL
BLAST CLEANINGSP-5 
Sa3 Sh3
Sd3
FIRST
(NIL)
No,1 99.9%以上
(~NIL)
NEAR-WHITE
BLAST CLEANINGSP-10
(95%以上)
Sa2 1/2 Sh2
Sd2
SECOND
(95%以上)
No,2 95%以上
(~99)
COMMERCIAL
BLAST CLEANINGSP-6
Sa2 Sh1
Sd1
THIRD
(80%以上)
No,3 67%以上
(~80)
BRUSH-OFF
BLAST CLEANINGSP-7
Sa1 --- --- No,4 ---
POWER TOOL
CLEANINGSP-3
St3 Pt3 --- --- ---
HAND TOOL
CLEANINGSP-2
St2 Pt2 --- --- ---
施工条件などを文章表現SP-10のみ防錆率を示しています。 標準写真
あり
標準写真
あり
Pt2,Pt1
もある
()内は
除錆率
を示す
  ()内は
最も厳しい
場合の
除錆率を
示す
  1. STEEL STRUCTURES PAlNTlNG COUNCIL(SSPC)
  2. INTERNATIONAL STANDARAD ISO8501-1
    (SVENSK STANDARAD SIS 05 5900-1967)(ISO,SIS)
  3. 日本造船研究協会「塗装前鋼材表面処理基準」
    STANDARD FOR THE PREPARATION OF STEEL SURFACE PRIOR TO PAlNTlNG.(SPSS)
  4. BRITISH STANDARD(BS)
  5. NATIONAL ASSOCIATION OF CORROSION ENGINEERS(NACE)
  6. THE SOCIETY OF NAVAL ARCHITECTS AND MARlNE ENGlNEER発行の
    ABBRAAIVE BALSTING GUIDE FOR AGED OR COATED STEEL SURFACES(1969.12)の
    標準値です。なお、この基準では素材の状態によって防錆率を変動させています。

各基準の相関性は下記によります。

SSPC~ISO(SIS)
SSPCおよびISO(SIS)に示されています。
SSPC~ISO(SIS)~BS
BS4232に示されています。
SSPC~NACE
上記6)で示されています。
ISO(SIS)~SSPC
本州四国連絡橋公団発行(昭和52年3月)「鋼橋等塗装基準・同解説」によります。